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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和49年(少)466号 決定 1974年3月19日

少年 I・A(昭二九・六・三生)

主文

少年を福岡保護観察所の保護観察に付する。

理由

1  非行事実

少年は、昭和四七年一〇月頃から北九州市○○区に勢力を有する暴力団○○会系○○組の組員となり、自ら保護者の許を離れて右暴力団関係者と寝食行動を共にして、保護者の正当な監督に服しないばかりか何ら正当な理由がなく家庭にも寄り附かず、かつ犯罪者、暴力団員等犯罪性のある人若しくは不道徳な人との交際を続けていたものであるが、昭和四八年九月三〇日午後九時頃、右○○組組員○高○が同組事務所の当番を怠つたことに対し、同組幹部○原○夫らが同人に対し木刀で四、五〇回殴打する等のリンチを加えるに際し、○原○夫に命ぜられるまま、前記事務所から同人と共に、○高○が逮捕、監禁されている同市○○区○○○町○番○号○○○会館×××号○山○次方まで同行して、右リンチが行なわれる間、隣室に待機したもので、少年の性格環境に照し将来罪を犯す虞があるものである。

2  法令の適用

少年法三条一項三号イロハ

なお、本件は「少年は、北九州市○○区に勢力を有する暴力団○○会系○○組の組員であるが、同組組員○高○が同組事務所の当番を怠つたことに対し、同人にリンチを加えることを同組幹部A、同B、組員C等と共謀し、昭和四八年九月三〇日午後八年四〇分頃、同市○○区○○町○番○号喫茶店「○○○○」にいた○高○を少年およびCの両名が両腕をとつて引き立て、店外にいたAと共に同所から約八〇メートル離れた同区○○○町×番×号○○会館×××号D方六畳の間に連行し、同所において少年が六畳の間の出入口で見張をして○高○が脱出するのを不能にし、B、Cの両名が○高○の顔面や腹部を数一〇回殴打、足蹴りしBがその背部を木刀で数一〇回殴打し、Aに連絡をとつて同人を同所に呼び、その後は同日午後九時三〇分頃まで○高○を監禁し、その間Bが木刀で同人の背部を四、五〇回殴打し、もつて四名共同して○高○にリンチを加え、同人に対し加療約一〇日間を要する背部打撲傷の傷害を与えたものである。」旨の逮捕、監禁、傷害保護事件として送致されたものであるところ、当裁判所は、審判の結果、右送致事実を認定せず、上記のとおり虞犯事由に該当するものと認めたのであるが、その理由の要旨は以下のとおりである。すなわち、被害者○高○は当初警察官らに対しほぼ送致事実に副う供述をしていたけれども、その後昭和四九年二月二一日付司法巡査に対する供述調書(謄本)により、右供述は勘違いによるものであるとしてこれを訂正し、喫茶店「○○○○」から同人をCと一緒になつて連れ出したのは本少年ではなくて、Eである旨供述するに至りこのような勘違いをしたのは、喫茶店で声をかけてきて無理やり店外に引つ張り出したのはCであり、もう一人は黙つて腕をとつていただけだつたので、Cの方にのみ気をとられていたのであり店を出てからはBに気をとられ、もう一人のEの顔はよく見ていなかつたことによるものであり、その後D方では気絶したりして頭が混沌とし、最後に帰る時本少年が一緒だつたので、本少年が最初から居たものと勘違いしていたものであつて、真実は本少年はAと一緒に来たにすぎないと弁解し、Dも当初は本少年らが○高○を連れて来た旨供述していたが、その後昭和四九年二月二二日付司法巡査に対する供述調書(謄本)により、それまでの供述は関係者が皆暴力団員であるところから後難を恐れて一部隠したり嘘を言つていたものであるからとしてこれを訂正して、真実を供述するに至り、それによると、○高○を連れて来たのは本少年ではなく、B、Cらであり、本少年はあとからAについて来たにすぎない旨供述し、Cも当初は本少年と一緒になつて○高○を捕えた旨供述していたが、その後同年二月二〇日付司法巡査に対する供述調書(謄本)により、それまでの供述は勘違いであり、真実は自分とEとBの三人で捕えたのであると供述するに至り、またBは同年二月一三日付司法巡査に対する供述調書(謄本)で、喫茶店から○高○を連れ出したのはCとEの二人であると供述し、Eも同年二月二二日付司法警察員に対する供述調書(謄本)で右Bと同旨の供述をしているのであつて、これら各供述内容と本少年が当初から一貫して自分はAについて行つただけである旨供述していること、関係者らが本少年を特に弁護している状況もないこと、本件捜査が事件後約四ヵ月経過してなされたこと等の諸般の事情およびその他関係各証拠を総合すると、本少年は、Aと事務所にいた時、外部からAに電話があり、その直後同人に「お前ついて来い」と言われ、事情を知らないまま同人についてD方へ行つたにすぎず、右D方の○高らのいる部屋に入つた時もAから「ちよつとお前出とけ」と言われて別の部屋にいつたのであつてその間Aらが○高○にリンチを加えるについて共謀をしたこともないことが明らかである。関係証拠中、送致事実に副う供述もあるが、それらは前記各証拠に照らして措信できない。

以上の次第で、本件送致事実を認めるに足る十分な証拠がないので、これを認定せず、結局前記認定のとおり虞犯事由に該当するものと判断したものである。

3  保護処分に付する理由

少年は、強盗、窃盗などの非行歴数回を有し、初等少年院に送致されたこともあり、昭和四八年九月二八日福岡地方裁判所小倉支部で恐喝被告事件につき懲役一〇月(三年間執行猶予)の判決言渡を受けたものであり、遊興を好んで生業に就かず、夜遊び、不良交遊を続け果ては家庭を離れて暴力団内部で寝食をなす等無為徒食の生活に深く親しんでいるうえ、その環境も交友範囲のほとんどが前記○○組等の暴力団員と目される者で、そのうち記録に現われているB、C、Aはいずれも前科前歴を有する者で、その不良交遊は著しく顕著であり、また家庭環境をみても父母には少年を適切に監護する能力はないものと認められる。

しかしながら、本件を契機に少年は、自分は何も悪いことはしていないのに送致事実のような逮捕、監禁、傷害事件に巻き込まれて、逮捕、勾留されたのは、自分が暴力団に入つているということだけで不利益に扱われたのであるとして、暴力団員であることに対して反省を示しているうえ、少年の親しい仲間が脱組したこともあつて、この際自分も脱組してまじめになりたいという気持も認められ、現に審判廷においては脱組してまじめになる旨誓つているのであつて、少年の能力的に優れた資質からして教育の可能性もあると認められるので、この際諸般の事情を総合考慮のうえ、少年に更生の機会を与えるべく、少年を保護観察に付して指導をはかることとする。

よつて少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 横山敏夫)

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